
弁護士コラム
第129回
『期間の定めのある雇用契約と退職代行』について
公開日:2025年6月12日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第128回は『期間の定めのある雇用契約と退職代行』についてコラムにします。
期間の定めのある雇用契約については、一般的に契約社員という名前で呼ばれています。契約社員という呼ばれ方は法律上では、期間の定めのある雇用契約ということになります。
契約社員に対するイメージを退職希望者の方にヒアリングすると、「正社員より、責任が軽い社員というイメージです」という回答をされ、さらに、「正社員より簡単に退職できるイメージです」と回答されています。その際、私の方から、『実は、正社員より退職が難しい場合もあります』とアドバイスすると、びっくりされる方も多くいらっしゃいますので、今回コラムで、『期間の定めのある契約社員』について解説します。

目次
1.期間の定めのある雇用契約の退職代行について
期間の定めのある雇用契約の退職については、民法第628条で定められています。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第628条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
第628条によれば、雇用の定めのある契約社員の場合には、❶『やむを得ない事由(理由)』があるときには、❷『直ち』に❸『退職』することができるとなっています。
まず、❶やむを得ない事由については、一般的な解釈で、本人に帰することが出来ない理由、すなわち、継続的な体調不良や、会社で、3ヶ月以上の給料が遅れる場合や、支給がされない場合、パワハラやセクハラを受けていて雇用の継続が難しい場合を言うものと指します。
実は、雇用の定めがある雇用契約の場合には、会社は、その期間、解雇することはできません。例外的に、やむを得ない理由の場合には、解雇することができると限定的に規定していますので、それと比較して、退職者自身に、相当な退職の理由を要求しています。よって、上記のように、退職にあたっては、退職者に、体調不良などの理由が必要となります。
この『やむを得ない理由』については、退職者の方に、立証責任があるので、例えば、体調不良であれば、診断書を退職者側で、『用意』する必要があります。
なお、診断書は、会社側が費用として出すのではないかというご質問を退職者の方から頂きますが、「体調不良の立証は、退職者がする必要があるため、その費用は、退職者自身で、出す必要」があります。
もっとも、❶やむを得ない理由については、会社側が退職理由を要求した場合に『初めて退職者が主張すれば良い』ため、退職代行時には、会社側がスムーズに退職を認めない例外的な場合に、やむを得ない理由を主張すれば足ります。
したがって、❶やむを得ない理由を要求してこないことが多い職種(派遣会社、大手会社の期間工など)では、私は、体調不良などがなくとも、退職代行するケースは多くあります。
1番最初にお話しした通りの正社員より退職が大変なケースとは、会社が退職をスムーズに認めない場合に、❶やむを得ない理由を退職者側で用意することが必要になるケースが当てはまります。
次に、❷直ちにとは、退職代行したその日を❸退職とする即日退職が法律上、認められています。
期間の定めのある雇用契約は、期間の定めのある雇用契約とは異なり退職の申し出をしてから14日という期間は不要になります(民法第627条第1項参照)。
したがって、仮、有給残日数が10日であった場合には、有給消化をしたその日が退職日になります。そのような意味で、契約社員の場合には、法律上、退職日の指定をしやすくなっています。
2.退職時の損害賠償請求について
さらに、期間の定めのある雇用契約の場合には、❹退職者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負うとされているため、損害賠償請求についても、解説します。
過失とは、法律上、予見可能性に基づく結果回避義務違反を言うところ、仮に、❶やむを得ない理由があった場合には、退職するという行為自体から損害が発生する可能性を予見し得たと言えないし、回避義務違反があったとは言えません。
したがって、簡単に言えば、❶やむを得ない理由があれは、❹損害賠償を負うこともなくなると言えます。
より簡単に言えば、会社が退職を認めない場合には、雇用の定めがある雇用契約の方が退職をスムーズに行うためには、雇用契約の定めの退職者の場合には、❶やむを得ない理由があるかどうかになります。
雇用の定めのある退職者の方で損害賠償の可能性について心配の方は、遠慮なく私までご相談下さい。力になります。
3.まとめ
今回は、期間の定めのある雇用契約について解説しましたが、会社側がハローワークの求人や入社時の面談では、正社員であると説明を受けていたにもかかわらず、入社後に、『雇用契約の期間がある契約社員』に勝手にされていたケースを良く話で聞きます。
実は、会社側が期間の定めを設ける理由の一つとして、国が会社に支給する『旧キャリア形成促進助成金(人材開発支援助成金)』の関係があります。
契約社員→正社員に転換する際に、国が会社に給付金を支給する制度があります。この助成金が欲しいがために、雇用者を雇用契約の定めがある契約社員にしています。
私は、働く側にとってみれば、このような会社は避けるべきであって、なるべく早い段階での退職を勧めています。
また、雇用契約の定めがある契約社員の退職代行について、退職代行会社が、退職代行をしているケースがありますが、紛争の蓋然性があるため、退職代行会社が行う退職代行自体が非弁行為にあたると考えます。したがって、期間の定めがある契約社員の退職代行を退職代行会社に依頼するのはやめるべきです。退職代行会社に依頼して会社と揉めて結果的に不利になります。
また、労働組合系の退職代行会社に依頼することもおすすめしません。
揉めるケースでは、労働組合系の退職代行会社が法的なアドバイスを適切にできないケースを山ほど私は見てきました。結果的には、退職者が不利益を受けています。労働組合系の退職代行会社に退職代行を依頼するのはやめるべきです。
私は、期間の定めのある雇用契約の退職代行は、弁護士に依頼することを強くお勧めします。
迷ったら、私まで遠慮なくご相談ください。力になります。
非弁とは、法律で許されている場合を除いて、弁護士法に基づいた弁護士の資格を持たずに報酬を得る目的で弁護士法72条の行為(弁護士業務)を反復継続の意思をもって行うこと。非弁行為ともいう。
弁護士法第72条
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者

弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。