弁護士コラム

第139回

『退職代行した際に会社が連絡や訪問してきた場合に本人が会社に損害賠償請求ができるケース』について

公開日:2025年7月16日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。

退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。

その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第139回は『退職代行した際に会社が連絡や訪問してきた場合に本人が会社に損害賠償請求ができるケース』についてコラムにします。

目次

1.本人が会社に対して損害賠償請求する場合について

退職代行を弁護士に委任することのメリットの一つとして、弁護士が会社との窓口を引き受けることで、退職者が会社と電話連絡をしなくて済むことがあげられます。

しかしながら、中には、しつこく会社が依頼者に対して、電話連絡をしたり、自宅訪問をしてくるケースがあります。場合によっては、自宅ではなく、実家、緊急連絡先、新しく就職した会社に対して電話連絡や訪問をしてくるケースもあります。

上述のケースについては、その電話連絡や訪問自体について、会社に対して損害賠償請求をすることが可能なケースがあります。
また、損害賠償請求の予告をすることで、電話連絡や訪問自体に対して抑止的な方法になる場合もあり、有効なケースがあります。


東京地裁平成17年9月13日判決では、交通事故の事案であるものの、『弁護士依頼権侵害による損害賠償(慰謝料)請求の可能性』について触れています。

被害者が弁護士をつけたとの連絡をしたにもかかわらず、相手方が、弁護士を通さず、被害者の職場の上司に電話し、「なぜ職員がこのようなことをするのか」などと被害者を非難する発言をしたケースなりますが、弁護士依頼権の侵害等にあたるとして、連絡をした側は慰謝料を払わないといけないとしています。

『被告Aが,原告訴訟代理人を通さず,原告本人も通さず,いきなり原告の職場の上司に対して電話をして,本件事故の示談交渉に関して原告を非難するようなことを述べた点は,原告のプライヴァシー権を侵害し,あるいは、弁護士依頼権を侵害するおそれのある内容を含んでいたというべきであり,通常の示談交渉の範囲を超え,被害者である原告の受任限度を超えるものとして,不法行為を構成するというべきである。』

結論として、慰謝料20万円を認定しています。

東京地裁平成17年9月13日判決は、限定的な判断とも考えられますが、私は、弁護士に退職代行(代理)を委任したにもかかわらず、それでも、会社がしつこく『依頼者や緊急連絡先など』に対して、連絡や訪問をし続けた場合で、弁護士依頼権を侵害するものと評価が出来る場合もあり、その場合には、損害賠償請求ができると考えています。

2.まとめ

東京地裁平成17年9月13日判決を前提とすると悪質的な行為自体を認定する必要があるため、❶会社側に対しては強く依頼者や緊急連絡先に対して、やめるように弁護士から通告することや、❷それでも会社がやめなかった場合に、はじめて請求するという段階的な手順を踏む必要があるため、会社に対して損害賠償請求を検討する場合には、事前に内容証明郵便などを送るなど、事前に担当の弁護士に十分相談することをおすすめします。

迷ったら、私までご相談ください。

・参考コラム

第64回『弁護士による退職代行と内容証明郵便』について

第65回『弁護士による退職代行と依頼者、身元保証人、緊急連絡先への電話連絡、自宅訪問』について

・参考条文

民法第709条

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。