
弁護士コラム
第142回
『看護師の方が奨学金を借りた場合に分割にして退職をする方法について【退職代行時の相談窓口】』について
公開日:2025年7月22日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第142回は『看護師の方が奨学金を借りた場合に分割にして退職をする方法について【退職代行時の相談窓口】』についてコラムにします。
看護師の資格取得にあたって、資格取得後→予定勤務先の病院を早期退職したいというご相談をお受けすることが多くあります。
最近では、早期退職のうち、奨学金を借りているケースでも、看護師の方から退職代行の依頼を受けています。
今回のコラムについても弁護士の清水隆久が解説していきます。
数多くの退職代行を行った弁護士だからこそ生きた知識をコラムにしていきます。最後までご拝読ください。

目次
1.奨学金(借入金)の有効性について
早期退職する理由は、看護師資格を取得したもののそもそも病院勤務が合わないと思った場合や所属の部署が合わないことを申し出たものの配置転換が行われなかった場合や給与面を含めて条件が良いところがあるため、転職したい場合などがあります。
看護師資格取得にあたって、奨学金を貸付て、退職時に一括返済することが労基法第16条に違反するか否かについては、かつては、議論がありましたが、適法で一定の決着がついたと言えます。
違法になった事案としては、看護学校の学費等について6年間で設定していた事案で、金銭消費貸借契約の形を取ったとしても、実質的に労働基準法第16条の損害賠償の予定に該当する場合は法違反になるとの判断があります。
この事案では、労働基準法第14条の有期契約について3年を超える期間を定めてはいけないというところに着目し6年はその倍であるとこと、勤続年数に応じた減額措置がないこと、返済額が基本給の約10倍の高額であることなどを指摘して無効と判断しています。
したがって、現在の奨学金制度(借入制度)を採用している病院は、勤務開始から5年以内で、毎月の償還金を設けている場合がほとんどです。
2.奨学金の分割交渉について
話を戻しまして、早期退職した場合には、退職時に借り受けた奨学金を一括で返済をするように勤務先から求められます。一括で返済できないケースは多く、私の方で退職代行するにあたっては、借り入れた奨学金の分割交渉を合わせて依頼されることが多くあります。
奨学金の返済にあたっては、様々なケースを受けていますので、遠慮なく私までご相談ください。力になります。
奨学金の分割交渉については、❶依頼者本人から委任を受けて分割交渉をすること、❷保証人から委任を受けて分割交渉をすることがあります。
流れとしては、まずは、❶依頼者本人から依頼を受けた上で、奨学金の分割交渉を第1次的に受けます。❶依頼者本人からの分割交渉がうまく行かなかったケースでは、❷保証人に一括請求されるため、改めて❷保証人からも分割交渉の依頼を受けることがあります。
分割交渉を依頼された場合でも、必ず、分割について同意を得られるとも限りませんが、勤務先としては、仮に、一括請求について裁判したとしても、差し押さえる財産がなければ、分割交渉に応じることがほとんどです。
過去に、奨学金の返済について分割交渉をした事案としては、①200万円を借り受けた事案で、まず、60万円を一括で返済して、残りの残額を毎月6万円で返済していく旨の合意を結んだケースや②120万円を借り受けて、毎月5万円で分割返済していくケースや③保証人に対して一括請求してきたために、保証人の方からも分割交渉の依頼を受けて、毎月5万円で分割返済していくケースなどがありました。
その他、様々な分割交渉のケースがありますので、奨学金の借りていた場合でも、退職についてお悩みでしたら、遠慮なく私までご相談ください。力になります。
3.まとめ
繰り返しになりますが、奨学金の返済と退職については、別問題となります。
奨学金の返済があるからと言って、民法第627条第1項によって、退職の申し出たをした日から14日経過後で退職となります(期間の定めのない正社員などの場合に限る。)仮に、有給残日数があれば、その有給消化をして退職するケースがほとんどです。
また、退職時の給与と奨学金を病院側が退職者の承諾なく相殺することは、労基法第17条違反となります。
奨学金返済の諸問題についてお悩みでしたら、遠慮なく私までご相談ください。
・参考コラム
第123回『看護師のための退職代行時の奨学金(借入金)と分割交渉』について
第127回『奨学金の返済期間中の看護師でも退職代行を利用できる理由』について
・参考条文
労基法第17条
(前借金相殺の禁止)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者

弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。