弁護士コラム

第143回

『現金支給と退職代行【相談窓口】』について

公開日:2025年7月25日

退職

弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。

退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。

その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。

コラム第143回は『現金支給と退職代行【相談窓口】』についてコラムにします。

目次

1.現金払いの原則について

給与支給が現金払いのケースについても弁護士の清水隆久が解説していきます。

給料の現金支給を振込みにできますか?というご質問をいただく場合がかなりの割合であります。

まず、給料を現金支給にすることは法律上、禁止されていません。労基法第24条では、『賃金』は原則として通貨で支払う必要があります(労働基準法第24条1項)。

ただし、例外として、『労働者の同意』があれば、労働者が指定する本人名義の銀行口座や証券口座に振り込むことが認められています(労働基準法施行規則7条の2第1号、第2号)。

法律上の建前として、給料については、現金支給が原則であって、例外として、労働者が同意した場合には、振込みになっています。

したがって、現金支給を振込みにするように、弁護士から会社に対して交渉したとしても、会社側で必ずしも振込みにする必要はありません。

労働基準法が定められた当時は、給料を受けるべき労働者以外の親などが子供に代わって受け取るなどする事案が多かったなどから定められた経緯があります。現在では、労基法が定められた当時と、状況はかなり変わっているにもかかわらず、法律自体には変更や改正はありません。

また、労基法第24条の趣旨は直接、労働者に支払うように求めている規定でありますので、代理人による受取は認められていません。弁護士であっても、その代理人にはなれません。

労基法からすれば、現金支給を振込みに変える交渉は、弁護士にとっては不利な状況であるのは確かです。しかしながら、振込みに変える交渉を上手く解決する成功率を高める方法を以下の通り提案します。

①退職代行時には、貸与品で揉めるケースが多くあるため、貸与品は会社から催促をされる前に送る。
②私物は事前に回収しておくようにする。
③仕事に大きな穴を開けないように退職代行のスケジュールを調整する。
④有給があるケースでは、全ての有給消化をするのではなく、一部にする。例えば、14日間の退職日までの間を有給消化し、消化できない日数については、放棄する旨の通知をする。
⑤退職代行の時間についても会社が忙しくない時間帯を狙って行う。
などが考えられます。

要するに、退職代行にあたって、会社に一定程度の配慮をしていることを上手く伝えるようにするのが成功のポイントになります。

2.まとめ

現金支給を振込みに変更してもらう交渉を弁護士がしてみたけれども、結果的に、上手くいかなかった場合には、労働基準監督署に未払いの申告をするのはどうだろうというご質問を貰いますが、上記の通り現金支給については、労基法違反にならないため、監督署はまったく動きません。

そうすると、退職代行時に現金支給のままの場合には、会社に依頼者が直接取りに行くことは難しいため、裁判所に訴訟提起する必要があります。

お困りでしたら、担当の弁護士または私までご相談ください。力になります。

・参考条文

労働基準法第24条

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

② 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

労働基準法施行規則第7条の2

使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の方法によることができる。ただし、第三号に掲げる方法による場合には、当該労働者が第一号又は第二号に掲げる方法による賃金の支払を選択することができるようにするとともに、当該労働者に対し、第三号イからヘまでに掲げる要件に関する事項について説明した上で、当該労働者の同意を得なければならない。
一 当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み

弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介

いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。

この記事の執筆者

弁護士清水 隆久

弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士

埼玉県川越市出身

城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。