
弁護士コラム
第147回
『退職代行したら、減給の制裁をされる理由』について
公開日:2025年8月8日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第147回は『退職代行したら、減給の制裁をされる理由』についてコラムにします。
退職代行にあたっての減給の制裁についてお困りでしたら、弁護士の退職代行のお問い合わせフォームからご相談ください。

目次
1.減給の制裁について
退職代行ということがこれだけ世の中に認知されてきましたが、退職代行した際に、減給の制裁を会社から受けることがあります。
減給の制裁とは、懲戒処分の一種になります。懲戒処分の種類としては、①戒告、訓戒、譴責②減給の制裁、③出勤停止、④降格、⑤諭旨解雇、⑥懲戒解雇、の6種類が一般的です。減給の制裁とは、❶1つの非違行為につき、平均賃金の1日分の1/2かつ❷総支給額の1/10を超えないこと、を指します。
したがって、仮に、退職代行自体が非違行為とした場合には、❶平均賃金の1日分の1/2程度を賃金から控除するしかできません。※平均賃金の1日分の1/2とは、3ヶ月の総賃金支給額をその暦日で割って、1日あたりの金額を算出します。4月、5月、6月の各給与総額月給 30万円の方であれば、90万円 ÷ 91日 = 9890円(1日あたりの額) ÷ 2 = 4945円 となります。
ここまでをまとめますと、30万円の給与の方であれば、退職代行についての減給の制裁は、4945円という金額にしかなりません。減給の制裁が心配ですというご相談を頂きますが、大した額にならないことがわかって安心して頂けると思います。
・参考条文
労基法第91条
(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
退職代行を使った場合に、会社側が減給の制裁して来た場合には、退職者としても争うことができます。労働契約法第15条によれば、『使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は無効とする』としています。
すなわち、減給の制裁自体が客観的合理的な理由と、社会通念上相当性がない限り、無効となります。さらに、減給の制裁自体についても、労基法第91条で、就業規則違反であることも必要となります。
したがって、会社側で、退職代行自体が就業規則違反事由にあたること、客観的合理的な理由、社会通念上の相当性を満たすようにしなければなりません。
ここまで今回のコラムを読んでいても退職代行を使ったことに対する減給の制裁が適法になるためには、いくつかのステップがあることがわかると思います。
※ここまでを簡単に一言でまとめますと、かなりの割合で、退職代行自体をしたことに対する減給の制裁が無効になると考えられます。減給の制裁については、お悩みでしたら、担当の弁護士、または、私までご相談ください。力になります。
2.その他の懲戒処分について
今回のコラムでは、減給の制裁について中心的に解説しましたが、その他の懲戒処分についても合わせて今回のコラムで解説します。
① 戒告、訓戒、譴責
戒告とは、いずれも労働者に対して反省を求め、将来を戒める内容の処分です。懲戒処分の種類のなかでは、最も軽い処分に位置付けられます。戒告、訓戒が口頭で反省を求めるのに対して、譴責は、始末書などの書面の提出を求めるという違いがあります。
②出勤停止
出勤停止とは、労働契約を維持しながら、一定期間、労働者の就労を禁止する処分です。出勤停止の期間は、法律上特に制限が設けられていませんが、1週間から1か月程度の期間となることが多いです。なお、出勤停止の期間中は、一般的に賃金の支払いはなく、勤続年数に算入されることもありません。
③降格
降格とは、労働者の役職、職位、職能資格などを引き下げる処分です。たとえば、課長職だった労働者を主任職に引き下げることが降格にあたります。降格にともない、役職手当の減額や職位・職能資格に基づく基本給の減額などが生じます。
④諭旨解雇
諭旨解雇とは、会社が労働者に対して退職を勧告し、労働者から退職届を提出させたうえで解雇する処分です。労働者から退職届が提出されない場合には、後述する懲戒解雇となります。
⑤懲戒解雇
懲戒解雇とは、懲戒処分として行われる解雇です。懲戒処分のなかでも最も重い処分になり、退職金の全部または一部の不支給をともなうことが多いです。
・参考コラム
第70回『懲戒対応と退職代行』について
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者

弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。