弁護士コラム
第186回
『トラックドライバーの退職代行の方法【当欠厳禁】』について
公開日:2025年11月4日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第186回は『トラックドライバーの退職代行の方法【当欠厳禁】』についてコラムにします。
2025.10.28「日経ビジネス」「モームリ強制捜査が浮き彫り、退職代行のグレーゾーンサービスは選別の時代へ」で弁護士清水隆久が取材を受けて解説しています。
目次
1.トラックドライバーの退職代行の方法【当欠厳禁】
トラックドライバーの方からの退職代行のご相談はとても多いです。また、トラックドライバーの方の退職代行については横の連携があるのでご紹介でのご相談が多いです。そんなトラックドライバーの退職代行については、注意するべき退職代行の方法があります。
それは、当日から出勤しないという退職代行の方法を選択してしまうことです。当日から出勤しない場合には、配送が決まっている場合やトラックに荷物を積んでいるケースがあり、その日から出勤しないという方法を取るとその日の配送の手配が付かないため荷主さんが会社に対して損害賠償請求をし、その後、退職者に「損害賠償請求」をするケースがあるからです。
したがって、私がトラックドライバーの方の退職代行をするケースでは、「前日」または「休日」に退職代行し、次の日から出勤しないことを所属会社に伝えます。その上で、有給があれば、次の日から有給消化し、有給がなければ欠勤させることがほとんどです。
トラックドライバーの退職代行については、より他の職種より安全安心に行うことが必要となります。もっとも、上記の方法による退職代行はトラックドライバーの方にあてはまるものの、例えば、配送の手配を行っている「管理業務の方」や「事務の方」については当てはまらず、当日の朝でも退職代行するケースはあります。
運送会社であるから一律にその日から出勤しないという方法が取れない訳ではありません。
2.借入金があるケースも!
トラックドライバー不足を解決する手段として、運送会社がトラックドライバーに借入をすすめ、その結果、ある程度の金額を運送会社から借入しているケースがあります。借入金がある場合も退職とは別問題であって、退職には影響がありません。
では、借入をするにあたり、退職時に一括で返済する旨の合意を運送会社と交わしていた際に、借入金と最終給与の相殺をする運送会社があります。
その相殺については、労基法第17条により相殺することを禁止されています。したがって、給与で一括返済するのは労基法第24条の賃金全額払いの原則に違反します。
次に少し難しい話になりますが、借入時の運送会社との合意で、退職時には給与から一括返済する合意を書面上で交わしていた場合には、労基法第17条の相殺禁止より、合意の特約が優先しますので、給与から控除しても労基法第17条違反になりません。すなわち、借入時の段階で、給与相殺を約束していたか否かで結論が大きく変わります。
今回は軽く触れる程度にしますが、仮に、給与相殺を約束していなかったにも関わらず、運送会社が借入金を一括控除して給与の支払いをしない場合には、労基法第24条違反が成立し得るので、賃金未払い事案として、所轄の労働基準監督署に給与未払いの申告をすることができます。
給与未払いの申告方法については、コラム第71回「労働基準監督署への申告及び告訴」について、をご参照ください。
3.残業未払い請求について
トラックドライバーの方の働き方は過重労働になっているケースが多いです。働き手の過重労働を前提として業界が成り立っていると言っても過言ではありません。
過重労働の原因として、長時間労働があげられます。その際、その長時間労働が未払い残業代とリンクしているケースが多くあります。
今回のコラムでは未払い残業代については、触り程度になりますが、解説します。
労基法第37条で「一日8時間、週40時間の労働時間を超えた場合には、割増賃金」を支払うようになっています。また、運送会社の場合は、1年単位の労働時間制を採用して、かつ、時間外労働に関する協定(36協定)で、年間960時間の時間外労働をカバーしていますので、月に80時間程度の時間外労働時間について、予め、固定賃金に「固定残業代」や「みなし残業代」を組み込んでいます。
したがって、月の時間外労働時間については、貰っている方としては、「時間外が未払いになっているように」感じますが、法律上は、かなりの時間外労働時間数をあらかじめ支払っていることになっています。
したがって、未払い残業代請求をする際には、「固定残業代」や「みなし残業代」を加味して私からは説明をします。
トラックドライバーの未払い残業代請求をする際には、「固定残業代」や「みなし残業代」について注意をしなければなりません。
では、どのようなケースで「残業代」請求が可能であるかと言えば、「基本給」や「基本給+精皆勤手当+無事故手当」などの基準内賃金で支払いをしているケースでは「未払い残業代」を請求することができる可能性があります。
4.まとめ
トラックドライバーの退職代行と言っても様々な相談が複合的に重なります。その際、適切にアドバイスをするように心がけますが、相談時に読んでおいて損がないコラムを書くべきだと思い解説しました。お困りでしたら私までご相談ください。
・参考条文
(前借金相殺の禁止)
第17条
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない
(賃金の支払)
第24条
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
第37条
使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が1箇月について60時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。