弁護士コラム
第197回
『【弁護士が解説!】業務委託契約の未払い報酬の回収ができたケースの紹介』について
公開日:2025年12月11日
退職
弁護士法人川越みずほ法律会計の弁護士の清水隆久と申します。
退職代行を専門的にはじめて早いもので、数年が経ちました。
その間、数多くの退職代行をした経験から「これは」と思うことをコラムにします。
コラム第197回は『【弁護士が解説!】業務委託契約の未払い報酬の回収ができたケースの紹介』についてコラムにします。
※業務委託の退職代行についてお困りでしたら弁護士の退職代行までお問い合わせください。
目次
1.未払い報酬の申告について
業務委託契約の解除するにあたって、解除以降の委託報酬を未払いにされるケースはとても多いのではないかと私は考えています。
委託報酬は給料ではないので労働基準監督署に救済の申し立てができないというご相談を受けることが多いので、未払い『申告』が受理されて監督署から未払い先に指導がされたケースをご紹介します。
例外的な是正指導だと思いますが、参考になるケースと思いコラムで解説します。
2.偽装委託? 雇用契約?
労働基準監督署の重要な役割としては、「企業が労働基準法を遵守しているかを監督し、違反があれば是正勧告を行う」ことがあります。業務委託契約は雇用契約ではないので基本的に労働基準法が適用されません。あくまでも労働基準法は雇用契約に適用されるからです。
しかしながら、本来雇用契約であったにも関わらず、契約上は「業務委託契約」になっているケースもあります。すなわち、その「業務委託契約」は『偽装委託』≒『雇用契約』である可能性もあります。一見して、『偽装委託』≒『雇用契約』であれば『労働基準法』が適用される可能性もあります。
そこで、労働基準監督署への未払い申告を行うためには、
⑴ 契約が『雇用契約』であることの認定
⑵ 労基法第23条の『申告』の流れになります。
3.未払い申告の流れ
⑴について
雇用契約であるためには、私のコラムでもよく出る基準をご紹介します。
❶仕事の依頼、業務従事の指示等に関する諾否の自由の有無
仕事の依頼、業務指示等に対して拒否する自由がない⇒労働者性が高い
❷業務内容及び遂行方法に対し指揮命令の有無
業務に対して事細かに指示命令がある⇒労働者性が高い
❸拘束性の有無
勤務場所・時間が指定されて管理されている⇒労働者性が高い
❹代替性の有無
代替性がない⇒労働者性が高い
❺報酬に関する労務対償性
歩合性ではなく、一日あたりの金額で報酬が定められている⇒労働者性が高い
❻機械器具の負担関係
業務に必要な高価な機械器具を委託元の会社側が提供する⇒労働者性が高い
❼専属性の程度
他所の業務に従事することが制約・事実上困難⇒労働者性が高い
❽報酬の額
同事業所の勤務する労働者と比較し、同等の報酬⇒労働者性が高い
同事業所の勤務する労働者と比較し、著しく高価な報酬⇒労働者性が低い
補足
業務委託契約書で❶❼依頼を拒否する自由の放棄を合意させられているケースも多くあります。また、業務委託契約書で委託内容について再委託の禁止を明記している契約もあります。再委託を禁止している契約内容自体で❹代替性がないと考えられます。さらに、LINEなどの事細かに指揮命令を行っているケース(❷)、シフトが定められているケースや、業務委託契約書で出勤時間、退勤時間が決められているケースでは❸時間的拘束性が認められやすくなります。報酬も月額や日額や時間単位(❺)で支払いされているケースもよく相談を受けます。
⑵について
労働基準法第23条は、退職時に、労働者の権利に関する請求は、請求があった時から7日以内に支払いをさせる条文になります。
「申告」の根拠である第23条第1項によれば「使用者」は、労働者の①「退職」の場合において、権利者の②「請求」があつた場合においては、③「七日」以内に④「賃金」を⑤「支払い」しなければならないとなっています。
そこで、私が行う退職代行(①)の際には、受任通知書上で、給料未払い、退職金未払いに対して、7日以内(③)に、給料、退職金(④)を支払う(⑤)ように請求(②)します。①から⑤の要件を満たした書面を出した上で、それでも会社が給料未払いにした場合には、監督署は、退職者からの申告に基づき、調査、指導、是正を行います。
調査、指導、是正の際には、監督署が会社に対して来署依頼をし、応じない場合には、直接、監督官が会社に訪問することもあります。また、申告を行う労働基準監督署は、会社の所轄の労働基準監督署になります。
仮に、所轄の労働基準監督署が遠い場合には、退職者がお住まいの労働基準監督署に申告される方もいらっしゃいますが、申告を受け付けてくれるかどうかは、住所地の労働基準監督署の裁量になりますので、断られることもあります。
また、所轄の労働基準監督署には、退職者が直接、足を運ぶ必要がありますので、退職者自身が所轄の労働基準監督署まで行く必要があります。 なお、①から⑤を満たした書面は、必ず追跡記録がある郵送方法によって行えば足り、必ずしも、内容証明郵便の形で行う必要はありません。青色のレターパック(レターパックライト)でも足ります。
4.まとめ
繰り返しますが、労働基準監督署への相談から申告については、会社の住所のある『所轄』の『労働基準監督署』に行う必要があります。また、電話ではなく、所轄の労働基準監督署へ出向く必要があります。
その際、⑴契約が『雇用契約』であることの認定が一番の山場になります。証拠は出来る限り、客観的な証拠(業務委託契約書、LINE、メール、勤務表、シフト表など)を集めて相談及び申告するようにしてください。
弁護士法人川越みずほ法律会計の紹介
いち早く退職代行を手掛け、今までも多数の相談及び解決事例があります。
今回、その中でもご質問が多いご相談事項をコラム形式でまとめました。
この記事の執筆者
弁護士清水 隆久
弁護士法人川越みずほ法律会計 代表弁護士
埼玉県川越市出身
城西大学付属川越高校卒業、中央大学法学部法律学科卒業、ベンチャー企業経営、労働保険事務組合の理事、社会保険労務士事務所の代表を経て、予備試験合格、司法試験合格、司法修習終了後、弁護士法人川越みずほ法律会計を設立、同弁護士法人代表に就任。労務・税務・法律・経営の観点から、企業法務に関わる傍ら、東から西へと全国を飛び回る。社会保険労務士時代に得た労働社会保険諸法令の細かな知識を活かし、かゆい所に手が届く退職代行サービスを目指して日々奮闘中。2019年に携わった労働事件(労働者側・使用者側の両方。労働審判を含む)は、60件以上となる。